すばらしい何かを求めて

 日本は、実質的にすでに戦いに敗れてしまっていることを、私自身はよくわかっていたのだが、何かしら、私は敗戦とは関係のないすばらしいことを仕遂げてみせるという感覚が体質的に定着していたように思えるのだ。
 三度の食事もひどいものだったし、衣服も乞食同然のさまだったが、いささかも苦にならない。ただひたすらに、そのすばらしい何かを求めて、欲望を燃やしていた、とはっきりいい切れる。(p.61、l.9-p.62、l.1)