人類愛(ヒューマニティ)の表現

 三重市の小児科の開業医夫人から電話がかかった。
「主人は三日前に眠るがごとく、やすらかに亡くなりました。」
 すすり泣きながら語った長電話の内容は、ご主人が半年前に膵臓ガンにかかったことを知り、医者である本人は命をあきらめていたが、私のゲルマニウムのことをどこからか聞き、服用したところ、まず痛みがとれ、そのうちに気分が爽快になり、さらに四カ月間一日三グラムの服用を続けて、検査の結果、ガン細胞は消滅したと医師に告げられた。
 そこで、本人は有頂天になって、早朝から夜遅くまで休みなしで診療を行い、極度に疲労困憊した状態にあった。
 ゲルマニウムのおかげで難病が治癒した実例は多いが、治ったと思って無理をすると、突然、心臓をやられたり、肺炎になったりして急死する例がしばしばある。
 理由は、まだよくわからないが、重病を克服するために、体内のエネルギーの莫大な消費があり、その回復がまだできていないうちに過度の疲労を重ねることにより、身体のどこか弱い個所に重大なる歪みを誘発することは想像に難くない。
 この小児科医の場合は、脳出血で倒れて、数分後には息を引き取ったが、夫人の電話では、息がきれる直前まで、私に感謝していたそうで、自分が難病を克服した時に、さあこれからは、憐れな子供達の病気を治して幸福にしてあげなくてはと、死にものぐるいで診療を行ったそうである。
 そのせいか、その死に顔の美しかったこと、死後十時間以上も体温が感じられ、荼毘に付した後のお骨のきれいであったことなど、連綿と語り、私に対するあらゆる賛辞を惜しまず、電話の報告は終わるところを知らぬほどであった。
 私は、この小児科医から半ば命を諦めたような手紙をもらった時に、何としても助けてあげたい。ゲルマニウムで助かるんだ。そして、もう一度人生をはじめるんだと、内心さけびながら、ゲルマニウムを送ってあげ、はげましの手紙を出したことを憶えている。
『死は久遠の生のはじまりである』ー(荘子)
 そして、
『よく費やされた人生は、幸福な死をもたらす』ー(レオナルド・ダ・ヴィンチ)
(p.108~110)